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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)3254号 判決 1967年7月03日

原告 メルク・アンド・コムパニー・インコーポレーテツド

被告 科研化学株式会社

主文

1、被告は原告に対し金一〇五、四七四、九三三円および内金九五、九八四、二四七円に対する昭和三七年八月二四日から、内金九、四九〇、六八六円に対する同四〇年三月一〇日からそれぞれ支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

2、原告のその余の請求を棄却する。

3、訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

4、この判決のうち第一項は、原告において金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事  実 <事実>

理由

(原告の特許権)

一  原告が原告主張の特許第一九二、一四七号ジヒドロストレプトマイシンの製造法の特許権を有していたことは、当事者に争いがない。

(本件特許発明の技術的範囲)

二 本件特許発明が、(イ)ストレプトマイシン酸付加塩を出発物質として、(ロ)それを接触的に還元して処理し、(ハ)かくしてジヒドロストレプトマイシンの応答塩を形成すること、(ニ)以上のことを特徴とするジヒドロストレプトマイシンおよびその酸付加塩を製造する方法であることは、被告において色々の限定のあることを主張するほか、当事者間に争いのないところである。

そこで、前記各要件の解釈について検討する。

(イ)  出発物質

成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)、同第一四号証(田辺義一鑑定書)と鑑定人中本宏の鑑定の結果、証人中本宏の証言によるとつぎの事実が認められる。

本件特許発明はジヒドロストレプトマイシンまたはその酸付加塩より成る新しい治療効果のある抗生物質をストレプトマイシン酸付加塩の接触的還元によつて製造する方法に関するものであるが、このように還元によつて処理しようとする理由は、ストレプトマイシンが化学的に不安定であり、特にその構造中アルデヒド基が反応し易いため化学的に不安定であるので、これに水素原子二個を添加してヒドロキシメチル基に転換して安定なものにしようにするところにあり、変化させたいのはストレプトマイシンであつて酸の部分ではない。

また前記甲第二号証によれば、発明の詳細なる説明の項には酸付加塩について「本発明において期待せる酸付加塩は酸部分が還元に耐えるか左もなくば還元されたならば還元工程中ストレプトマイシンと反応しないか又は其の還元を阻止しない所の酸付加塩である」と記載され、さらに「酸付加塩として適当なものは鉱酸塩並に酸部分がC=C結合以外の還元性基を含有してない有機酸付加塩である」と記載されていることが認められる。

以上の事実からして、本件特許発明において出発物質としてストレプトマイシンに付加されるべき酸は、ストレプトマイシン(塩基)と結合して塩を形成する酸であることを要するほか、還元工程中にストレプトマイシンと反応しないかまたは還元を阻止しないような機能を有するもの、換言すれば還元に関与しない挙動を示す酸であることを要し、適当なものとしては鉱酸、還元性基を有しない有機酸、還元性基としてC=C結合のみを有する有機酸であることがわかる。

被告は、ストレプトマイシンに付加されるべき酸は鉱酸に限られるのであつて、有機酸についてはなんら開示がない旨主張する。しかし、前掲甲第二号証によれば明細書に実施例として示されているものは被告の主張するように、塩酸、硫酸のみであるけれども、前記のように発明の詳細なる説明の項には、適当なものとしてC=C結合以外の還元性基を含有していない有機酸について言及しているのである。もつとも、この有機酸についてはそれ以上なんら具体的な説明がないが、もともと本件特許発明において還元しようとするのはストレプトマイシンの部分であり、薬効を保有するのもこのストレプトマイシンないしジヒドロストレプトマイシンの部分であつて、酸の部分はこの還元に関与しないが挙動を示すものであればそれ以上に特定のものでなければならないという要請も発見することができないから、有機酸を用いる場合について前記の程度にしか言及していないからといつて、有機酸について発明の開示がなされていないとはいえない。鑑定人中本宏の鑑定の結果、乙第三九号証の一、二(野本慶三鑑定書)のうちこれに反する見解は採用できない。したがつて、被告の主張は認容することができない。

つぎに、出発物質であるストレプトマイシン酸付加塩について、被告は医薬として適当なもののみに限定されると主張する。しかしながら、前掲甲第二号証によれば、明細書の発明の詳細なる説明に記載されているところは、まず既存のストレプトマイシン酸付加塩の製造過程を記載し(公報一頁左欄二六行目から右欄二四行目)、かようにして得たストレプトマイシン酸付加塩は治療用として適当な形態であるが、化学的に不安定であることに着目してその原因を追及し、化学的に安定でしかもストレプトマイシン塩と大体同様な抗生作用を有するジヒドロストレプトマイシン化合物を形成する方法を発見したことを述べているのであつて、出発物質であるストレプトマイシン酸付加塩が医薬として適当なものに限るとの限定を加えているとは認められない。また、明細書に記載されている他の説明をみても、かような限定をしているとは解されない。これに反する鑑定人中本宏の鑑定の結果は採用しない。

(ロ)  処理手段

前掲甲第二号証、同第一四号証および鑑定人中本宏の鑑定の結果によると、本件特許発明においてはストレプトマイシン酸付加塩を接触的に還元するが、ここにいう接触的還元とは触媒の存在下で水素を添加する操作をいい、この操作によりストレプトマイシンのアルデヒド基をヒドロキシメチル基に転換しようとすることが明らかである。

被告は、この接触的還元が水溶液中で行うものに限られる旨主張するが、前掲各証拠に徴すれば、本件特許発明においては還元自体に主眼があるのであつて、その還元方法において考慮される諸条件の選択は普通に行われるところで足りるものであり、どういう溶媒を用いるかについて特に制限を加えたと認める根拠は発見できない。溶媒に何を用いるかは酸付加塩として何を選択するかにより自ら決ることがらであつて、明細書に記載されている具体例においていずれも溶媒として水が用いられているのは、水に溶解し易い鉱酸付加塩が選ばれているからにすぎない。

(ハ)  生成物

ジヒドロストレプトマイシンの応答塩が出発物質であるストレプトマイシン酸付加塩に対応するジヒドロストレプトマイシン酸付加塩であることは、被告において争わないところであるが、被告はこの生成物が医薬として適当なものに限られると主張する。しかしながら、この酸付加塩のうちの酸は還元に関与しないものが選ばれていることは、さきに述べたとおりであるから、生成物の酸付加塩は出発物質の酸付加塩と同じ性質を必然的に引き継ぐものである。したがつて、出発物質について説明したところは、そのまま生成物にあてはまるといつてよく、被告の主張はいれるわけにはいかない。

(ニ)  最終目的物

最終目的物であるジヒドロストレプトマイシンとはジヒドロストレプトマイシンの応答塩から酸を外したものをいうことは被告の認めるところである。しかしながら、被告はその酸付加塩は応答塩自体に限られ、応答塩の酸を他の酸に置換したものは含まれないと抗争する。前掲甲第二号証、乙第三九号証の一、二によると、発明の詳細なる説明の項(公報一頁右欄一六行目から二四行目)にはストレプトマイシン酸付加塩の製造についてではあるが精製のために塩酸をヘリアンチンを経て他の鉱酸と置換する方法が記載されているがその置換されたものをもストレプトマイシン酸付加塩と呼んでいる事実が認められ、これに本件特許発明の目的が治療効果のあるものを得ようとする点にあることを合せ考えれば、「その酸付加塩」には応答塩の酸を他の酸に置換したものも含まれるものと解するのが相当である。明細書に記載されている実施例1、2において塩酸をヘリアンチンに置換しているのは、単に元素分析のためなのか、それとも本件特許発明において応答塩の酸を他の酸に置換することを示唆しているものか、これのみでは明らかではないが、いずれにせよ前記認定を左右するものではない。甲第一四号証のうちこれに反する見解を採用しない。

(被告の実施方法)

三 成立に争いのない乙第一七、一八号証ならびに証拠保全における証人中山弘美の証言、鑑定人八木沢行正の鑑定の結果および検証の結果を考えあわせると、被告が実施しているジヒドロストレプトマイシン硫酸塩の製造方法は、つぎのとおりであると認められる。

(1)  ストレプトマイシン生産菌を培養し、その培養液を加圧濾過し、培養液から菌体を除去して培養濾液を作る。

(2)  イオン交換樹脂を用いて培養液中から色素、アミン類、鉄等の不純物を除去し、これに硫酸を加えてストレプトマイシン硫酸塩溶液を作る。

(3)  ストレプトマイシン硫酸塩溶液にメタノールとペンタクロールフエノール(以下「PCP」という。)を加えてかきまぜ、ストレプトマイシンPCP塩とストレプトマイシン硫酸塩との複塩を作り、自動濾過器を用いて余分の硫酸メタノール、水等を分離する。

(4)  この複塩に醋酸ブチルを加えてストレプトマイシンPCP塩の醋酸ブチル溶液を作り、これに溶けないストレプトマイシン硫酸塩は他の固型の不純物とともに遠心分離器にかけて除去する。

(5)  ストレプトマイシンPCP塩の醋酸ブチル溶液に酸化白金を触媒として加え、常圧の水素ガスを一定時間通気し計算量の水素を吸収させてジヒドロストレプトマイシンPCP塩を作る。

(6)  ジロドロストレプトマイシンPCP塩のPCPを硫酸と置換してジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を得る。

原告は被告の前記製造方法のうち(5) (6) の工程をとらえて原告の特許権を侵害すると主張するところ、被告は、その実施している製造工程は互に不可分のものであるから、その一部のみをとらえるのは誤りであると主張する。しかし、一連の工程から成る製造法においてその一部が他の部分から区別し得る限り、それが特許権の対象となることは、あらためて説明するまでもあるまい。してみれば、他人が一連の工程から成る製造法を実施している場合、その工程のうち他から区別し得る一部の工程を特許権の侵害であるとすることは、当然可能であるといわなければならない。ところで、被告は、被告の実施方法を本件特許発明の方法と対比するためには、結晶性の純粋な医薬を得ることを目的とした被告の実施方法を正しく把握し、複塩を出発物質としてとらえた上で、処理手段、生成物等をも取り上げるのでなければならないと主張するが、この複塩がたとえ被告の主張するように本件特許明細書にも記載されていない新規物質であるとしても、前掲甲第一四号証と鑑定人八木沢行正、同中本宏の各鑑定の結果に徴すれば、被告の前記工程のうち(4) までの工程ことに結晶性の複塩を生成経由する工程は、還元に供するストレプトマイシンPCP塩に純粋なものを得るための精製工程にすぎないことが認められる。してみると、被告の実施している製造工程のうち(4) までの工程と原告が取り上げた(5) (6) の工程とは明らかに区分することが可能であるといわなければならず、したがつて原告が(4) までの工程を問題とせずに(5) (6) の工程のみを特許権侵害の対象として取り上げたことはあながち不当とはいえない。かくして、原告の取り上げた(5) (6) の工程を比較の便宜上分解すると、つぎのとおりとなる。

(イ)  出発物質 ストレプトマイシンPCP塩(の醋酸ブチル溶液)

(ロ)  処理手段 酸化白金を触媒として加え、水素ガスを一定時間通気し計算量の水素を吸収させる

(ハ)  生成物 ジヒドロストレプトマイシンPCP塩

(ニ)  最終目的物 ジヒドロストレプトマイシンPCP塩のPCPを硫酸に置換してジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を得る

(本件特許発明の方法と被告実施の方法との対比)

四 そこで、本件特許発明の方法と被告実施の方法とをそれぞれその対応する部分に分けて対比する。

(1)  出発物質

前掲甲第一四号証、成立に争いのない甲第五号証、証人中本宏の証言および鑑定人中本宏の鑑定の結果によると、PCPは塩基であるストレプトマイシンと結合して塩を形成するものであり、かつ、ストレプトマイシンPCP塩のPCPの部分は還元処理中にストレプトマイシンと反応せずまた還元を阻止しない機能を有するものであり、これは明細書において適当なものとされている還元性基を有しない有機酸であると認められる。

被告はPCPはカルボキシル基を有しないから有機酸でない旨主張し、有機化合物の分類として被告主張のようにカルボキシル基を有するもののみを有機酸という定義をする場合のあることは、明らかである。しかし、何を有機酸というかは必ずしもこの定義にのみ限定されるものではなく、酸を分類して無機酸と有機酸の二つに分ける場合もあり、この場合においては無機酸に属しないものは有機酸であるということができる。本件における酸は塩基と結合して塩を形成する性質に重点があり、有機化合物の分類が問題となるわけではないから、無機酸でないものという意味で有機酸に当れば十分である。ところで、フエノールのクロール誘導体であるPCPは無機酸に属するものでないことは明らかであるから有機酸に当るということができる。被告の主張は採用できない。

つぎに、被告はストレプトマイシンPCP塩は医薬とならないものであると主張するけれども、本件特許発明のストレプトマイシン酸付加塩は医薬として適当なものに限定されないことは、さきに認定したとおりであるから、被告のこの主張は問題とならない。

以上のとおりであるから、被告の実施方法におけるストレプトマイシンPCP塩は、本件特許発明の出発物質であるストレプトマイシン酸付加塩に含まれるといわなければならない。

(2)  処理手段

被告の実施方法は、水素ガスを通気して水素を吸収させ、ストレプトマイシンのアルデヒド基をヒドロキシメチル基に転換するものであるから還元を行うものであり、それを触媒の存在下で行うから接触的還元である。被告は本件特許発明の接触的還元は水溶液中で行うものに限られると主張するが、この主張の失当であることはすでに述べたとおりである。したがつて、被告の実施方法における処理手段は本件特許発明における処理手段に当るものと認められる。

(3)  生成物

被告の実施方法におけるジヒドロストレプトマイシンPCP塩のうちPCPの部分は還元前と変りがないことは、さきに述べたとおりであるから、本件特許発明における生成物であるジヒドロストレプトマイシンの応答塩に当ることは明らかである。このジヒドロストレプトマイシンPCP塩は純粋なものであると被告は主張するけれども、精度の如何は本件特許発明との対比上問題とならないことは、説明するまでもあるまい。

(4)  最終目的物

被告の実施方法ではジヒドロストレプトマイシンPCP塩のPCPを硫酸と置換してジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を得ているが、これが本件特許発明において応答塩の酸を他の酸に置換した酸付加塩に該当することは明らかである。

以上のように、被告の実施方法はその出発物質、処理手段、生成物、最終目的物の各部分とも本件特許発明のそれに該当する。そして、結晶性の複塩を生成経由する工程が還元に供するストレプトマイシンPCP塩に純粋なものを得るための精製工程にすぎないことは、さきに認定したとおりであつて、この精製工程がそれに引き続く還元工程になんらか影響を及ぼし本件特許の方法と別個の方法に変容していると認めるべき資料は他に存在しないから、被告の実施方法は本件特許発明の技術的範囲に属するものといわなければならない。

(他の特許との関係)

五、被告は特殊法人理化学研究所が特許権を有する特許第二一七、七二六号について実施権を有しており、被告の実施方法はこの特許発明を利用するものであると主張し、被告がこの特許権につき実施権を有していることは当事者間に争いがない。しかし、この特許の出願の日は本件特許の出願の日より後であるから、かりに被告の実施方法がこの特許発明を利用するものとしても、被告の実施方法が本件特許発明の技術的範囲に属すること前認定のとおりであり、かつ、本件特許発明と特許第二一七、七二六号の発明とが同一発明でないことは当事者双方の明らかに争わないところであるから、このような関係にある以上、被告は原告の許諾を得ない限り実施することができないわけである。したがつて、被告のこの主張については、これ以上考察を加える必要をみない。

(差止および廃棄請求)

六、原告は、以上の理由によつて本件特許権に基づいて被告に対し、別紙目録記載の方法によつてジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を製造することの停止と、その製造に係る生産物の廃棄とを請求している。しかし、本件特許権は昭和二六年一〇月一五日に出願公告されたものであつて、昭和四一年一〇月一五日の経過とともに存続期間の満了によつて消滅に帰したから、前記請求は認容の余地なく、棄却するほかはない。

(不当利得返還請求)

七、被告がジヒドロストレプトマイシン硫酸塩およびそれを五〇パーセント含有している複合ストレプトマイシンを製造販売していることは当事者間に争いがなく、そのジヒドロストレプトマイシン硫酸塩の製造法が本件特許発明の技術的範囲に属することは、さきに認定したとおりである。

被告がこの製造販売について正当の権限を有することについての主張、立証はないから、被告は法律上の原因がないのに原告の特許権を実施したものといわねばならない。そして、被告がこの特許権を適法に実施するには特許権者である原告の許諾を必要とし、許諾を得るためには相当の実施料を支払わなければならないわけであるが、被告はこれを支払わずに実施してその支払を免れ、同額の利益を受けたことになる。一方特許権者である原告は本来もらえる筈の実施料を支払つてもらえず、これと同額の損害を被つたものということができる。したがつて、被告は原告に対してこの実施料相当額を不当利得として返還する義務があると解するのが相当である。

そこで、まず本件特許権の製造販売についての実施料額を検討すると、成立に争いのない甲第一二号証の一、五、六、と証人古川敬一郎の証言によると、原告は昭和二六年訴外協和醗酵工業株式会社に対しストレプトマイシンおよびジヒドロストレプトマイシンの製造に関して本件特許権を含む四件の特許権について製造販売の実施を許諾し、実施料は国内向製品の販売価格の五パーセント、輸出向製品の販売価格の七・五パーセントと定める旨の契約を締結し、その後実施料率は変更されたこともあるが五パーセントを下ることはなかつたことが認められる。そして、この技術援助契約の締結およびその変更については外資委員会の認可を経ていることでもあり、他にこの実施料率が不当に高額に取り決められたと認定するような証拠はないから、この実施料率は適当なものであるといつてよい。ただ、この契約は本件特許権を含む四件の特許権に関するものであるけれども、証人中本宏の証言と本件弁論の全趣旨とによれば、本件特許発明はジヒドロストレプトマイシンの製造に関する基本の特許発明であつてジヒドロストレプトマイシンはこの発明によつて初めて製造された新規物質であると認められるから、本件特許権は四件のなかで最も価値のあるものと推認することができる。かような事情を考慮に入れるときは本件特許権の製造販売についての実施料は、製品の販売価格の二・五パーセントを下らないものと認めるのが相当である。

さて、被告が昭和二七年五月から同三九年五月までの間に別表1の数量欄記載のとおりジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を合計二〇、一九九、九五九グラム製造し、また、昭和二八年一〇月から同三九年五月までの間に別表2の数量欄記載のとおり複合ストレプトマイシンを合計三七、九八一、九八一グラム製造したことは当事者間に争いがなく、これらの製品を被告が販売したことは被告において明らかに争わないところである。そして、証人古川敬一郎の証言と同証言によつて真正に成立したと認められる甲第一三号証によると、別表1および2記載の各時期別の相当な卸売単価は各表の単価欄記載のとおりであることが認められるから、これに基づいて算出すれば、各時間別の卸売価格は各表の卸売価格欄記載のとおりとなる(ただし、各表には計算上の誤りがあるので別紙正誤表<省略>のとおり修正する)。したがつて、卸売価格合計は別表1のジヒドロストレプトマイシン硫酸塩の分は金二、三〇二、九八二、一八九円、別表2の複合ストレプトマイシンの分は金三、八三二、〇三〇、三〇六円となるが、後者が五〇パーセントのジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を含有していることはさきに認定したとおりであり、価額のしめる割合も五〇パーセントを下らないものと認められるから、後者に含有されているジヒドロストレプトマイシン硫酸塩の卸売価格は半額の金一、九一六、〇一五、一五三円となる。

それ故、原告主張の期間内に被告が製造販売したジヒドロストレプトマイシン硫酸塩の卸売価格は合計金四、二一八、九九七、三四二円となり、これに前認定の実施料二・五パーセントを乗じて実施料相当額を算出すると金一〇五、四七四、九三三円となる。

してみれば、被告は原告に対し不当利得として金一〇五、四七四、九三三円を返還する義務があり、この金員のうち昭和三七年八月二三日以前に履行期の到来しているものは、別紙計算書<省略>(同書記載の製造数量は甲第一一号証の三によつて認めた。)に記載したように合計金九五、九八四、二四七円であるから、同金員に対しては原告が支払の請求をした翌々日である昭和三七年八月二四日以降、残余の合計金九、四九〇、六八六円に対しては原告が支払の請求をした翌日である昭和四〇年三月一〇日以降各完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は正当である。

(結論)

八、よつて、原告の請求は前記認定の限度において正当であるから認容するが、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 古関敏正 吉井参也 小酒礼)

(別紙)

目録

ストレプトマイシンのペンタクロールフエノール塩の醋酸ブチル溶液に酸化白金を触媒として加え、水素ガスを一定時間通気し計算量の水素を吸収させ、ジヒドロストレプトマイシンのペンタクロールフエノール塩を得た上、そのペンタクロールフエノールを硫酸に置換してジヒドロストレプトマイシン硫酸塩を得る方法

以上

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